昆虫を飼料化 飼料自給率上げ持続可能な畜産目指す

昆虫タンパク質を代替原料に用いた鶏用飼料の有用性評価事業
 世界的に食肉需要が高まる中、それを支える飼料の情勢は、ウクライナ危機など海外情勢に大きく左右されます。飼料需給安定のためには、飼料の国内生産を増やし自給する体制の構築が求められます。
 そこで、新たな動物性タンパク質資源として注目されているのが昆虫です。食品残渣(ざんさ)などで育てたアメリカミズアブ(以下ミズアブ)の幼虫を、原料の一部にした飼料を鶏に給餌。品質や安全性を確かめ、持続可能な食肉生産技術の開発と、濃厚飼料自給率の向上に貢献する研究が始まりました。
昆虫を魚粉の代替に採卵鶏に年間給与

 昆虫を食品残渣で育て、鶏や豚の餌にすることで、生ごみは減り、輸入が大部分を占める濃厚飼料を国産化――そんな研究が進んでいます。
 香川大学准教授の川﨑淨教先生は、「未利用資源の飼料化」という研究テーマの中で昆虫の飼料化を研究してきました。
 スタートは2016年度、環境省の環境研究総合推進費の助成を受け、始めた「ミズアブの機能を活用した革新的資源循環系の構築」。大阪府立環境農林水産総合研究所、愛媛大学、国際農林水産業研究センターと香川大学の4機関で共同研究しました。
 その後、JRA畜産振興事業として19年から昆虫を鶏用飼料にする研究を始めました。魚粉の代替原料としてミズアブ幼虫の乾燥粉末を利用。通常、濃厚飼料中に含まれる魚粉の割合が3%程度であることから、3%すべてをミズアブに代替したもの(3%区)、半分の1.5%を代替したもの(1.5%区)、魚粉をそのまま使ったもの(対照区)の3種類の試験飼料を作りました(図1と写真1)。
 「魚粉を昆虫飼料に置き換えるとどうなるか」を1年の長期間、試験するという研究は世界的にも初の試みでした。大学内にある開放型鶏舎で、ジュリアという品種の採卵鶏に3種類の試験飼料を給餌。1カ月ごとに体重や卵質などをチェックしました。さらに1年後、試験した鶏を最終的に解剖し、腸内環境の変化や消化管組織なども調べました。

図1 試験飼料の配合割合(%)
写真1 左から対照、1.5%、3.0%の試験飼料

体重、卵重ともに増加

図2 鶏の体重、卵重、卵黄重の対照比較

 その結果、全体で有意な差が出たのが、鶏の体重、卵重、卵黄重の3項目でした。(図2)
 この3項目で、昆虫飼料給与区の成績が良かったのです。鶏の体重が大きいと産む卵も大きくなるというのは、過去の知見からも予想された
ことですが、なぜ昆虫飼料を与えると体重が増えるのかは現在解析中です。ただ、その理由のひとつとして考えられるのが腸内環境の改善です。「餌に含まれる糖を分解する酵素や小腸の絨毛(じゅうもう)の高さなどが増えており、これにより栄養を吸収する能力が高まったのではないか」と川﨑先生は考えています。
 昆虫飼料は、単に魚粉などの動物性タンパク源の代替というだけでなく、鶏を元気にし、健康で大きな卵を産むのに役立つことが分かったのです。
 この成果として、今年8月に鶏研究で最も権威のあるアメリカの学術誌「Poultry Science」に川﨑先生の論文が掲載されました。

ミズアブ育成を最適化

 昆虫をタンパク源とする研究は、家畜や魚の餌だけでなく人間の食料という分野でも進められています。世界人口は2050年には97億人に達し今よりも20億人も増えるなど、未来の食料不安が懸念されています。そんな中「昆虫食」は、タンパク質が豊富である一方、飼育に必要な餌は食品廃棄物で済み、さらに、従来の動物性タンパク源に比べて飼育時に排出する温室効果ガスが少ないことから、地球に優しい未来のタンパク源として注目されています。例えば、コオロギは、パンやせんべいなどで市販されており、また、ミールワーム*などが餌用の昆虫としてペットショップで売られています。
 今回の試験対象であるミズアブは、北海道を除く日本全土に戦後から生息しています。アブといっても刺したりはせず、作物や人畜には害を及ぼしません。幼虫は食品廃棄物や家畜ふんなどのさまざまな有機物で成長し、高タンパク質飼料としての利用が期待されます。
 飼料化するミズアブは、成虫から採卵後、ふ化した幼虫を野菜くずで育てました。初め体長2、3ミリだった幼虫は、5、6回の脱皮を繰り返し、2、3週間で15ミリほどになります。この状態で乾燥・冷凍した後、砕いて粉状にしたものを有機溶媒などで脱脂しさらに乾燥させます。
 ミズアブはどんな餌なら、よく育つのかも調べました。「肉が入っていても大丈夫ですが、一番成長が早いのは野菜類。やはり炭水化物などの糖類がある餌が良いようです」と川﨑先生はその成果について話します。
 試験結果では野菜残渣を50%とした餌が、ミズアブの成長に最適と分かりました。この割合を適用すれば、地域ごとの多様な食品廃棄物で効率的にミズアブを成長させることが期待されます。

* ミールワーム=ゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫の総称。肉食のペット(は虫類や両生類、ハリネズミなど)用としてペットショップでも販売されています。

課題はコストダウン大量生産体制に期待

 昆虫飼料が比較的新しい研究分野であるのには、訳があります。日本の畜産関係の研究者は、比較的牛の専門家が多く、国内でのBSE発生以降、牛に動物由来のタンパク質を飼料に混入させないことが法制化されたため、昆虫飼料に対する関心が低かったことが挙げられます。
 また昆虫飼料を普及させていくうえで、今後大きな課題となるのがコストです。現在、輸入した場合、魚粉が1キロ当たり220円するのに対して、ミズアブは410円と高価です。このため「国産の昆虫飼料を大量に供給する体制を整え、コストダウンを図ることが不可欠」と川﨑先生は訴えます。国内の企業が、生育加工施設を作り生産体制を構築することが望まれます。最近では、コロナ禍やウクライナ危機で、飼料原料が高騰しています。昆虫飼料国産化は、その対策にもなります。この研究は、そのためのデータ収集や評価となるものです。
 タイやマレーシアでは、すでに国内でミズアブを使用した昆虫飼料を生産しており、輸入魚粉と価格が変わらない供給体制が作られています。また中国ではミールワームの生産が盛んで、低価格で売られています。

川﨑先生は昆虫飼料に新たな可能性を感じている

昆虫飼料の普及に意欲

 川﨑先生が見据えるゴールのイメージは、国内で昆虫飼料を大規模生産する会社ができ、飼料メーカーが当然のように昆虫を使った飼料を流通する姿です。
 20年度の飼料自給率は25%、濃厚飼料に限るとわずかに12%にとどまります。海外では投資家が数百億円を集めて、ミールワームなどの昆虫飼料を作るベンチャー企業に投資しています。日本でも企業が、海外レベルの日量数百トン、数千トン単位で生産できれば、自給率も0.5~1%は変わります。
 前出の大阪府立環境農林水産総合研究所は、20年に昆虫飼料の循環利用について情報交換できる「昆虫ビジネス研究開発プラットフォーム」を設立しました。川﨑先生は、「プラットフォームに参加する企業と連携し、昆虫飼料の普及に努めていきたい」と意気込んでいます。

川﨑かわさき 淨教きよのり
プロフィル
宮崎県宮崎市生まれ、36歳。香川大学農学部応用生物科学科 准教授 博士(農学)。主な研究分野は、動物栄養学、動物生産科学。研究テーマのひとつに「未利用資源の飼料化」がある。

事業名

昆虫タンパク質を代替原料に用いた
鶏用飼料の有用性評価事業

事業実施主体
国立大学法人 香川大学

事業概要

 濃厚飼料自給率の向上や持続可能な開発目標(SDGs)を意識した食料生産が求められている中、新たな動物性タンパク質資源として昆虫が注目されている。本事業は、近年価格が高騰し自給率も10%台と低い濃厚飼料の代替物として、食品残渣などの未利用資源を餌として育てたアメリカミズアブの幼虫を原料の一部とする飼料を作製し、鶏に給餌して生産性や品質、安全性に及ぼす影響を検討し、持続可能な食肉生産技術の開発および濃厚飼料自給率の向上に貢献することを目的としている。