乳母豚を利用した子豚管理技術開発事業

養豚農場の生産性向上に期待
 養豚農場では、生産性の向上を目的とした多産系母豚の導入が進んでいます。しかしその一方で、母豚の保育能力を超えた数の子豚が誕生するため、初乳が十分に飲むことができずその後の生育に影響が出る場合があるという課題も出てきていました。
 豚を擬似的な妊娠状態にして乳が出るようにした「乳母豚」(うばとん)に母豚の代わりに授乳させたら子豚は順調に生育するのか――多産系母豚導入に伴う課題への解決策を示すべく、乳母豚の乳成分の解析とその乳を飲んだ子豚の免疫性・発育性に関する研究事業が平成28年度から麻布大学で行われています。

多産系母豚導入するにも授乳に課題が

 養豚農場では生産性の向上が求められており、その対応策として(1)繁殖成績を向上させて、1腹当たりの分娩と離乳する子豚頭数を増加させる(2)徹底した衛生管理で、発育過程で死んだり病気にかかる肉豚頭数を減少させて出荷頭数を増やす――ことが課題となっています。
 最近では、1腹当たりの子豚分娩頭数が多いオランダ産やデンマーク産をはじめとする多産系母豚を導入する農場が増えています。しかし、これらの母豚は乳頭の数より多くの子豚を産む場合が多く、また個体の大きさに差があることから、乳頭にあぶれる子豚が出てくるなど、授乳中の子豚管理が難しいことが課題となっています。さらに、豚は、胎盤を通じて母体から胎内の子豚に抗体が移らないため、抗体が含まれる質の良い初乳を十分飲むことができない場合、子豚の生存やその後の生育に影響を及ぼします。生まれた子豚がきちんと育たなければ、せっかく生産性向上のために多産系母豚を導入したとしてもその効果が低くなってしまいます。

簡便・低コスト 乳成分は自然分娩の乳と同じ

 麻布大学では、本研究事業に取り組む前から、雌豚に持続性エストロジェン製剤(EDP)を与えることで「妊娠様状態(偽妊娠=乳母豚)」にさせ、さらに、偽妊娠豚にプロスタグランジンF2α(PGF2α)を与える前にEDPを追加して与えると、初回PGF2α投与24時間目には乳腺が膨らんで乳が出ることを確認していました。従来の偽妊娠誘起手法に比べて簡便・低コストであり、さらに、偽妊娠豚から乳汁を取ることに成功した新規性の高い技術です。
 本事業では、この技術を使った乳母豚の乳を子豚に飲ませて、発育性や肥育性について研究・調査が行われています。乳母豚の乳成分を解析した結果、(1)初回プロスタグランジン(PGF2α)投与後24~48時間に乳母豚から得られた乳(偽妊娠初乳)は自然分娩から得られる「初乳」の乳成分と同等、(2)乳母豚から得られる乳の中の免疫グロブリンGとA(IgGおよびIgA)濃度は乳が出始めてから時間がたっても(偽妊娠常乳)高い濃度のままである――ことが分かりました。

図: 乳母豚に育成された子豚の発育成長差事業と乳母豚に育成された豚の肥育成および肉質調査事業

免疫力も発育性も 実母から取った初乳と同じ

 子豚の免疫力と発育性に関して、初乳を飲んでいない子豚を、生後3時間目までは母豚から離し、その間に実母から取った初乳(実母初乳群)を飲ませたグループと乳母豚から取った乳(偽妊娠初乳群および偽妊娠常乳群)を飲ませたグループを作り、生後3時間には実母に戻して生後21日目まで自然哺育したところ、どのグループでも子豚の離乳頭数(事故率)は変わらず、子豚の免疫性および発育性についても同じという結果が得られました。
 この結果について麻布大学獣医学部の野口倫子講師は、「産まれた直後に偽妊娠豚から得られた乳を摂取することは、授乳期間中の子豚の体重変化や生後24時間における子豚の増体重に悪影響を及ぼさない。子豚への偽初乳あるいは偽常乳摂取は、実母から得られた初乳と同等の免疫グロブリンの体内移行効果を持つことが分かった」としています。

  • 非妊娠豚の偽妊娠状態の乳頭
  • 偽妊娠豚に泌乳誘起処置をした後の乳頭

肥育性と肉質を調査 ワクチン開発への活用にも期待

 研究事業最終年度の今年度は、乳母豚の乳を飲んで育った子豚の肥育性と肉質の調査が行われています。乳母豚を応用して子豚を管理する技術は、多産系母豚群の能力を最大限生かすことにつながります。
 また、養豚生産現場では、近年大きな被害を与えている豚流行性下痢(PED)をはじめとして、初乳を介してのみ子豚へ移行することを目的としたワクチンが用いられていますが、妊娠豚を使った場合は初乳を得るまでに妊娠期間として約115日が必要であることに比べ、この技術では約40日程度で乳を取ることが可能です。
 偽妊娠豚から得られた乳に含まれる成分が子豚の免疫や発育に問題がなければ、短時間で乳の評価が可能となり、ワクチン開発のスピードアップも期待されています。