ゲノム情報活用育種改良推進事業

より速く正確に、肉用牛改良
 肉質など産肉能力に優れた子牛を産む親牛をより効率的に選抜するため、肉用牛の評価法の技術開発が進んでいます。家畜改良事業団は平成29年までの3年間、「ゲノム情報活用育種改良推進事業」に取り組んできました。
 ゲノミック評価は、家畜から採取したDNAを分析してその能力を推定、評価する方法で、従来の血統情報による評価方法に比べ、家畜が若い段階から評価でき、より正確に判断できる可能性が高く、注目されています。同事業を受け、県やJAグループなどでのゲノミック評価の取り組みも進んできています。

毛根のDNA分析 産肉能力など評価

 生物の遺伝子は4種類の塩基という物質で情報を伝えています。牛の染色体は約30億の塩基対で構成され、そのうちの数百万カ所で塩基配列の異なっている部分があります。ゲノミック評価は、この塩基配列の違いによって遺伝的能力を判断する方法です。ゲノミック評価は、乳牛では既に導入され、海外では豚でも実用化が始まっていますが、肉用牛では、同事業団が24年度から取り組みを始めており、30年度からは新たに「肉用牛ゲノム情報活用推進事業」として子牛の発育や繁殖形質の評価手法の開発を手掛けています。
 従来からの血統情報による種雄牛や繁殖雌牛の評価では、産んだ子の肉質などの情報を元に遺伝的能力を推定して親牛の育種価を算出していますが、雄は15頭以上の産子の枝肉が必要となり、雌牛でも最短で5年と、相当の時間が掛かります。これに対してゲノミック評価では、産まれて間もない雄子牛や繁殖雌牛の候補牛でも毛根を採取して調べることができるため、改良速度の大幅な向上が期待できます。
 しかも、これまでの血統情報による評価法では、両親が同じ場合は兄弟姉妹の遺伝的能力差は同じものと判断されてきましたが、ゲノミック評価法では、兄弟姉妹でも違う能力差を個別に評価できることから、より精度の高い選抜が可能になります。

  • 毛根からDNAを採取
  • DNAを抽出
  • DNAの検査
  • DNAを解析して能力を評価
生まれて間もない牛の毛根が全国から家畜改良事業団家畜改良技術研究所に送られてくる。このDNAを分析し牛の能力を評価する。

農業所得の増大に貢献できる技術

 同事業の検証の結果、ゲノミック評価法は、種雄牛に対しては、従来手法による選抜の候補を選ぶための一次選抜に利用でき、現場後代検定を経て検定済みの種雄牛を選抜する際の指標としても十分に使えるレベルであることが確認されました。また、計画交配対象雌牛などの遺伝的能力の把握にも有効で、特に若い雌牛に有効であることが分かりました。
 しかし一方では、ゲノミック評価で選抜を進めると、血統の多様性が損なわれる恐れがあることに留意することが課題として挙げられています。また、繁殖性や飼料効率の良い牛の選抜についても研究を進めることが課題として挙げられており、その課題を解決するための取り組みが30年度からの新たな事業に組み入れられています。
 今後これらの技術活用により、肉用牛繁殖農家が繁殖雌牛にどの種雄牛を交配するかを判断する際や、能力の高い繁殖雌牛の保留や導入を検討する際に有効な情報を得られることになります。また、肥育農家にとっても、より信頼できる子牛を購入する際の指標としても役立つことになり、肉牛飼養農家の農業所得の増大に貢献できる技術として期待されています。

群馬県ではすでに受精卵を農家配布

 全国で同事業を受けた取り組みが始められています。群馬県では、全国に先駆けて26年度から家畜改良事業団と連携してゲノミック評価に取り組み、その成果として、30年度から「スーパー黒毛和牛受精卵供給事業」を始めました。

群馬県畜産試験場は、高能力を期待できる牛の受精卵を繁殖業農家へ配布している。同試験場では採卵のために人工授精に取り組んでいる。

 この事業は、群馬県畜産試験場で生産した高ゲノミック評価が期待できる受精卵を、県内の和牛繁殖農家に供給し、繁殖雌牛の保留と改良に役立てようとするものです。県内の9和牛改良組合でも関心が高く、9月から同事業による受精卵の供給が始まりました。12月までの第1期に108卵、2月に第2期200卵近くを予定しており、その効果が期待されます。
 「ゲノム情報活用育種改良推進事業」の成果は全国の繁殖牛の改良に応用されつつあり、このほかにも、岡山県では、若い雌牛を中心にゲノミック評価を実施。改良のスピードアップに取り組んでおり、長野県や佐賀県、栃木県、愛知県、秋田県などでも、県やJAを中心にゲノミック評価により優秀な繁殖雌牛を選抜する取り組みが行われています。29年度には、大規模繁殖農家を中心に、約3000頭の繁殖雌牛のゲノミック評価の申し込みもありました。
 このように、「ゲノム情報活用育種改良推進事業」の成果は、着実にその裾野を広げてきており、肉用牛の育種・改良スピードアップへの貢献が期待されています。